同窓会トップページへ戻る
入会のお誘い
経済学部のひろば
事業・行事案内
同窓会報より
同窓会特別講座
森嘉兵衛賞
会員短信
卒業生サービス
同窓会の案内
[同窓会からのお知らせ]同窓会からのさまざまなお知らせはここから
[リンク集]同窓会や法政大学関係のリンク集

[創立25周年記念事業]特設サイトへ
法政大学経済学部同窓会は
創立25周年を迎えました


[卒サラ・起業家インタビュー・シリーズ]へ

法政大学経済学部同窓会事務局
〒194-0298
 東京都町田市相原町4342
 電話・FAX:042-783-2550
 (火・水・金曜 9時〜16時)
法政大学経済学部同窓会同窓会特別講座>粕谷信次教授
同窓会特別講座

グローバリゼーションの中での比較地域発展政策
−参加民主主義と維持可能な発展−

粕谷信次 教授
 学部長職が終わって2年目の2000年度後期、幸い、半年間の在外研修の機会を頂きました。この機会をどうしたら最も有効につかうことが出来るかを考え、結論として、表題のような課題を深く追求する上で、できるだけ多くの地域を訪れ、現地の人々の営みと風景に触れることが重要と思い、そのためにつかおうと決めました。当初は、欲張って先進地域、途上地域とも、いくつか候補地を考えたのですが、結局実現したのは、10月初めから暮れまで、1997年、スコットランド、北アイルランドとともに、宿願の自治政府(ウェールズではAssembly)を獲得したウェールズ(UK)、正月明けから3月半ばまでは、同じく1997年、様々な基本的人権の擁護と末端のコミュニティにまで分権を進めることを謳う、画期的な新憲法を獲得したタイの、それぞれ1地域に留まってしまいました。

 【ウェールズ】1970s初頭、石炭、鉄鋼、 造船産業など地域の主要産業の衰退に見舞われ、2桁の失業と貧しい農村を抱えたWalesでは、どのような地域開発政策が展開されてきたか、その過程を辿ってみました。
 興味深い発見のひとつは、一方で、炭労などの労組と労働党は合理化、炭鉱閉山に対抗するストを打ちながら国家レベルの救済を求める運動を展開しましたが、他方で、失業者に溢れた炭鉱の町では、牧師のイニシャティブのもと、炭鉱夫も交えた、いろいろな職業の、地域の普通の老若男女が集まって、2年越しの、地域再生を求めるフォーラム(“The Valley Call”)の結果、「内発的発展」と呼んでよい地域再生計画を描いていたことでした。
 しかし、1976年、中央政府のイニシャティブで、 The Welsh Development Agencyが設けられ、そこが地域開発政策の推進拠点となると、国内他地域からの、そして後には、とくにサッチャー政権下では、もっぱら欧米、そして日本からの工場誘致が地域開発政策の中心となりました。そして、たしかに、つい数年前まで、これによって、WalesはUKで、地域開発のもっとも成功した地域として注目を浴びてきました。しかし、近年、拡大EUやポンドの対ユーロ高を理由に直接投資の撤退が続き、工場誘致に依存した地域開発政策の見直しを迫られるに至りました。そこで再び原点に帰ったように、地域中小企業振興、さらには、「犂から皿」(Plough to Plate)にいたる有機農業や各種コミュニティ・ビジネスの創出がより重要だといわれるようになってきました。分権を梃子にそれが進むことが期待されるのですが、昨年までは、まだ動きは鈍いようでした。「労働党王国」の一党体制のもとで、「新しい労働党」の基盤をなす、肝心の直接民主主義のダイナミズムが看取できない。「民主主義の民主主義化」「市民力」の底上げがその条件だといわれています。もっとも、実質2ヶ月一寸という滞在期間の制約で、市民運動や市民組織の岩盤に触れられなかったのかもしれませんので、それを確かめてからでないと確定的なことはいえません。UKの他の地域の実情を調べることともに、それは今後の課題として残されています。

 【タイ】年末年始、厳冬のイギリスから一時帰国して、正月明け、真夏のバンコクへ向いました。
 チュラロンコン大学を中心に研究者や一部の官僚へのヒアリングと、文献、資料の収集に努めましたが、むしろ、運動に忙しいタイの様々なNGOsを訪ね、かれらの認識と意見を聞けたことが大きな収穫となりました。とくに、NGOの紹介で、東北タイの二ヶ所のコミュニティ・フォレスト(住民による森林管理)の活動現場に赴き、村びと達と話し合えたことも大きな収穫でした。
 タイでも滞在期間の短さが大きな限界となりましが、それでも、「命と暮らし」の危機に瀕する人々が、生きていく為には起ち上がるしかない状況で起こす、いろいろな運動が現実に展開していること、そしてそれは、それをめぐるコミュニティ内外の賛成、反対の政治的・運動的対抗に媒介されて、グローバルなNGOsや市民社会の連帯、国連、世界銀行、アジア開発銀行なの国際機関、そして多国籍企業や先進諸国政府・機関をも引き込んでいることが否定しがたい現実として迫る感じがしました。憲法上の規定は単に文章に過ぎず、法律があっても実施されず、かくて市民社会の市民が中間層など一部の人々に限定され、それからはみ出ざるを得ない、命と暮らしの危機に瀕する人々の、あるいは、ダムの現場に住み込み、あるいは、ハイウエイをデモで止め、あるいは、首相官邸の前に座り込みを長期にわたって続けている「貧民フォーラム」の運動に象徴される、「モッブ型の社会運動」こそ、森や海の生態系とかれらの生活を支えるコミュニティの権利を、憲法上の市民の自由と権利の内実を満たし、かくて、タイにおける市民社会を広く、深く拡延する梃子なっていることをみることが出来ました。このような生きた運動に支えられてはじめて、今度は、憲法上の規定、市民社会の存在が、かれらの参加民主主義を支え、運動を支える武器になりえる。住民組織の連携、NGOsとの、あるいは知識人との協力のネットワーク、一部のマスコミは、この相互媒介の往復運動をダイナミックに増進しえる。しかし、同時に、このダイナミズムが押さえ込まれ、事態が逆に回転して、後者の相互媒介が細り、「貧民フォーラム」が孤立し、憲法が空文化する危険もきわめて大きいことを感じざるをないことも事実でした。Walesでは、掴まえようとして掴まえられなかった対抗するベクトルのダイナミックな動きが、ここでは向こうから迫ってきたという感じでした。

(2003.8.31)

粕谷信次教授 筆者:粕谷 信次(かすや のぶじ)