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法政大学経済学部同窓会同窓会特別講座>黒川和美教授
同窓会特別講座

公共選択、財政赤字、レントシーキング
黒川和美 教授
 あなたの専門領域にしている学問分野は何かと問われると、私は公共選択論だと答えているが、相手はわかったようでわからないという表情をする。初めて、約30年前にこの公共選択論のメッカといわれたヴァージニア工科大学公共選択研究センターを尋ねたいと私が所属した慶応大学の理論系教授や大学院仲間に話したら、みな一様に止めろと反応した。当時のアメリカの学会に詳しい人たちはウルトラコンサーバティブ、超保守主義者のグループだというのだ。一応私はその人たちの論文も読んでいたし公共選択論の内容は知っていたが、アメリカの他学派にはそのように思われていたらしいのだ。勿論今でも人の合理的行動や選択Rational Choiceについて論じる経済学の手法を用いている公共選択をラッチョといって意地悪にけなす人がいることは承知している。

 この学派のリーダーであったブキャナンは1986年に法制度と経済活動を扱った憲法の経済学でノーベル経済学賞を受賞した。レーガン政権時代にはアメリカの財政赤字の拡大をDemocracy in Deficits、財政赤字の政治経済学に指摘し、世界のベストセラーになった。もう一人のタロックはレントシーキングという概念を作り出した。技術開発をし、市場を開拓して、他の事業者が思いつかない商品を生産し、ユニークな方法で販売して利益、レントを追求する。これは正当な競争に基づく利益追求だが、中には政治に働きかけ、政治の作り出す独占的な既得権益として安定した利益追求を行う事業者が出てくる。競争ではなく、自分に、自分の所属する企業に有利な計らいを政治に働きかけて、法律で権利を確保して独占的に利益を得るのだ。企業は政治家に献金などの付け届けをして自分たちが有利になるように働きかける。技術開発に投資する企業家と、政治家に投資する企業家は違うというのがタロックの言い分で、この政治家への投資は社会の技術開発競争を抑制し、非効率な社会を作り出してしまうと。
 ブキャナンは財政膨張を抑制するグラム、ラドマン、ホリングス法の生み親といわれ、アメリカの財政赤字を憲法で押さえようとした。他方タロックは政治に働きかけて独占を享受し、競争を避ける企業家を非難した。こんな経済学者達を私は彼らが世界的に活躍するずっと前に好きになった。この理論をベースに日本でも行政改革や財政再建が進められてきたが日本ではなかなか支持者が増えてこない。

 景気対策が必要だとか、銀行倒産は国民経済に多大な不安をもたらすといった議論は財政のばら撒きを、ゼネコンや銀行救済のために大声を出す政治家は悲しくなるほど多くなっている。小泉改革を国民が支持するのは、不透明な政治と業界のつながりや、現状肯定型の地域の利害を振り切って競争力のある、前向きの日本を作り出そうという姿勢を指示しているのではないか。
 出発点は理論に現実性を加えるところにあった。官僚も政治家も社会的使命で行動するというより、彼自身の利益で行動するとした方が政治家や官僚の行動をうまく説明できるし、現実感がある。政治家は次の選挙で当選することを第一の行動原理にしていると行動を定義した。官僚は彼らの利用可能な予算の最大化、組織の最大化を図ると定義した。こんな議論が広がり始めたころ、アウトレイジャス(Outrageous)ふとどきな輩(やから)の学派とみなされ、品のない、学問として配慮のない学派、公共選択学派が新しい研究領域を作り出していった。特にアメリカ、イギリス、日本、イタリア、スペインでは大いに成長した。

 次の時代を担う若手の研究者が日本でも法政、慶應、中央、関学を中心に育っている。レントシーキングは15名ほどの若手研究者で、英国経済学会の著作は法政大学の経済学部院生8人によって行われた。昨年7月には勁草書房から発行された。中央省庁は政治家とのかかわりを問題にしている。地方分権や街づくりも重要なテーマだが中心市街地活性化を公約にした多くの地方自治体の首長は選挙で落選している。時はまさに公共選択論が指摘した諸問題の渦中にある。自民党政治は先進国では犯罪となりそうな集票方式を取っている。財政赤字も既に危機を越えて犯罪の領域にある。しかし公共選択論の分析は問題を指摘するには極めて鋭いが、あるべき姿を提言するには十分とはいえない。

(2003.11.19)

黒川和美教授 筆者:黒川 和美(くろかわ かずよし)