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法政大学経済学部同窓会同窓会特別講座>伊藤陽一(名誉教授)さん
同窓会特別講座

福島の現況と日本の将来を危うくする原発依存
伊藤陽一(名誉教授)


福島の現況と日本の将来を危うくする原発依存


 2011年の東電福島事故、浪江町等では津波による生死不明の家族・友人の捜索を退避指示でいきなり打ち切られ、遺体捜索も1か月以上放置された。大熊町の精神科の寝たきり老人や介護老人を扱う双葉病院関係では、三次避難までを繰り返し、この間、約440名の患者中50人が亡くなった。東日本大震災の直接の死者・不明者数は警察庁によれば、全国で絵約2.2万人弱、福島県で約3700人、これ以外に、上記の事例をふくむその後の避難等で亡くなった「震災関連死」は、復興庁のこの6月末の計算で、1都9県で3.323人、福島県が1914人で全体の57%をしめる。多数の「原発関連死」による。「原発関連死」は政府統計にはない。東京新聞の「原発関連死」の独自計算では、この3月に1,232人である。

 ご存じだろうか。福島の警戒区域内で事故前に、牛が約3500頭、豚が約2万頭、鶏が約44万羽、飼育されていた。苦労を重ねて福島の大地を切り開き愛情をこめて育てた家畜たちである。退避指示で牛たちと別れた牛飼いの思いはどうだったろうか。牛舎で給餌のため首を固定されて餓死し朽ちてしまった牛の列。殺処分された牛や豚たちの累々たる光景。事故後3か月、南相馬のある酪農家は「原発さえなければ」を書き残して自殺した。ごくわずかの牧畜家が、放射線汚染で商品価値をなくした何百頭かの牛を、餓死させ殺処分はしないと飼い続けている ( 参考:針谷勉『原発一揆』サイゾー) 。日本一の美しい村をめざした飯館村は高レベル放射線を浴びて荒れ放題だ。福島県の避難者は、この7~8月に、県内62,853人、県外45,241人、退避先不明者31人をふくめて合計108,125人である。今も続く原発被害下のこれら福島県民1人1人が抱く無念の思いをどう受け止めるのか。

 国会事故調査委員会は、東京電力の調査妨害で事故原因に十分迫りえなかった。現在も高レベル放射線によって完全には解明できない。しかし、その後の情報は、福島事故は東日本が汚染される更に大規模な過酷な事故に至る可能性があったことを示している。
福島事故の廃炉作業はこれから長く続く。高レベル放射線廃棄物の中間貯蔵地決定もままならず、最終処分地も決定しようがない。廃炉計画や除染計画を急ぐ政府・東電の下で作業員の状況は厳しく、労災事故が急増してこの8月だけで3人死亡事故だ。汚染水は‘out of control’で、海洋放棄がなしくずしで進んでいる。住民が、故郷の自宅に住みたいし事業を復活させたい帰還希望者と、避難継続希望者とが分断されて複雑な関係に置かれる中、政府は、特定避難勧奨地点の指定解除を急いでいる。一般国民の通常の被ばく限度の年1mSVに対して、この避難指定の解除は、年20mSV(これは防御服で作業する原発労働者の被ばく限度と同じ)以下の場合である。対応して、帰還しない避難者には、借り上げ住宅無償供与、営業損害補償、慰謝料支払い等を打ち切るというのである。

 昨2014年11月に経済学部同窓会が開催してくれた、在日ベルラーシ共和国特命全権大使で科学者でもあるセルゲイ・ラマノフ氏の特別講演は大変貴重であった。ベルラーシには住民個人の健康診断をふくむデータベースがあり、子どもリハビリ・健康増進センターのネットワークがある。チェルノブイリを挟む隣国ウクライナの関係文献も読んだ。講演で筆者が感じたのは、チェルノブイリは1985年事故後日本に学んだが、日本は、3.11以前には、日本ではありえないことと言い放ち、3.11後もチェルノブイリの被ばく住民・子どもの健康管理や対策を学んではいない、ということであった。

 原発による発電コストは安いという論拠は既に崩れているし、CO2の排出量がないという言も、ウラン採掘から輸送を通じて原発に装填する迄と、温排水の放出や高レベル放射線廃棄物等を考慮し、他方で省エネや自然(再生可能)エネルギーの拡大と対比すると、説得力を失う。
日本列島は、地震と火山が集中し、台風もひんぱんに襲来する世界に稀な「自然災害列島」である。福島の事故原因が解明されず、責任は問われず、規制委員会人事の偏りや新規制基準の欠陥が指摘されるなか(参考:法政大学名誉教授(元経済学部教授)奈良本英佑著『原発の安全を保証しない原子力規制委員会と新規制基準』合同出版)、この列島での原発再稼働を、立地自治体を除く周辺自治体や国民の過半の反対を無視して川内で開始した。原発推進勢力は、政府の「2030年電源構成見通し」に原発20~22%を書き込んだ。これは、40年超えの老朽原発の稼働はしないという福島事故後の取り決めを無視して、はじめて可能になる。
しかし、再稼働拡大の道は、東電福島事故を反省せず、福島を見捨てることである。そして、再生エネルギー産業と省エネ・再生エネ関連技術開発という21世紀型の産業・経済発展の道を進みつつあるヨーロッパとは真逆に、前世期の古い原発に固執して、日本や企業の将来を危うくする道だろう。

(2015.8.25)


伊藤陽一(名誉教授) 伊藤 陽一 (いとう よういち)

1939年1月 札幌市生まれ
1961年3月 北海道大学経済学部卒
同大学大学院博士課程を単位取得退学後