法政大学経済学部同窓会「自著を語る」 大平佳男 |
『日本の再生可能エネルギー政策の経済分析――福島の復興に向けて』
(2016)八朔社
1.はじめに
2011年3月に起きた東日本大震災と原発事故は、エネルギー問題に対する認識を大きく変えるきっかけでした。広く一般の人にとっては、普段使っている電気が何なのかを考えるきっかけになり、多くの人が再生可能エネルギーに関心を持つようになりました。そして、再生可能エネルギーに求められる役割も大きく変化しました。本書は、震災以前からの日本の再生可能エネルギー政策の変遷の中で、いかに再生可能エネルギーを普及させていくべきなのかを問い、再生可能エネルギーを通じた地域貢献(福島の復興)に対してどのようにしたらよいのかということを研究した一冊になっています。
本書の目次は以下の通り。
はじめに
第1章 再生可能エネルギー政策及び電気事業を通じた福島県の再生に向けた問題提起
第2章 日本のエネルギー政策と経済学的位置づけ
第3章 電力自由化の下での非再生可能エネルギーと再生可能エネルギーの生産活動の変化
第4章 部分独占を伴う電力市場での再生可能エネルギー政策と価格差別に関する理論分析
第5章 日本におけるRPS 制度と太陽光FIT 制度に関する比較分析
第6章 福島の復興と再生可能エネルギー
終章 福島の復興に向けた再検討
2.なぜ再生可能エネルギーなのか
本書は主に2000年代以降の再生可能エネルギー政策の変遷を追っています。私が法政大学経済学部に入学した1999年に茨城県で起きたJCO臨界事故をきっかけに再生可能エネルギーに関心を持ち、大学院に進学して本格的に研究を開始したのがこの時期になります。当時は規制緩和の流れの中にあり、電力自由化に伴い、安価な火力発電(石炭火力)が台頭し、それにより温室効果ガスや大気汚染物質の排出が増加すると考え、代わりの電源として再生可能エネルギーに着目しました。そこから、電力自由化(市場競争)の中でいかに再生可能エネルギーを普及させるにはどうすべきか、という問題意識で研究を行っています。原発も火力発電と同様に、市場競争の中で再生可能エネルギーが選択されるような社会になれば、原発は選択されなくなると考えています。そのためにも今は再生可能エネルギー政策が重要になります。
経済分析を行うにあたり、第2章で日本の再生可能エネルギー政策や電力自由化の変遷をまとめています。今日の再生可能エネルギーはFIT制度によって急激に普及しましたが、FIT制度は再生可能エネルギー政策のひとつに過ぎず、また、再生可能エネルギーの普及の通過点に過ぎません。本書の結論にもつながってきますが、福島県の復興につなげるためにも、再生可能エネルギー政策のあり方を再度見直す必要があります。本書は、そのきっかけを提供する一冊と考えています。
3.再生可能エネルギーと原発
東日本大震災と原発事故に伴う一連の電源不足や、リスクの大きい原発に依存した電力供給体制のあり方に関する課題に対して、再生可能エネルギーの普及が期待されるようになりました。では、再生可能エネルギーは原発の代替電源になることができるでしょうか。
本書の冒頭(p.4)でも示していますが、この課題には2つの視点から捉える必要があります。「電力としての代替」と「経済的・財政的な依存からの脱却とその代替」です。単純に原発と再生可能エネルギーが代替できるかというとそう簡単ではありません。しかし、福島県で求められている脱原発と再生可能エネルギーを活用した復興には、この2つの視点は無視できません。そして他の原発立地地域でも原発依存から脱却するには、この2つの視点の解決策の提示が必要になってきます。
この2つの視点に対して、本書の中心的なテーマでもある「再生可能エネルギーの普及」と「再生可能エネルギーによる地域貢献(福島の復興)
」が解決策になってきます。詳しくは本書をご覧いただき、さらに発展した議論をしている山川充夫・瀬戸真之編著(2018)
『福島復興学』八朔社の拙著「再生可能エネルギーを活用した復興」pp.242-256もご参考いただければ幸いです。
4.福島の復興と地域活性化に向けた視点
福島の復興に向けて、再生可能エネルギーの継続的な普及が必要不可欠であり、そのような視点から本書では再生可能エネルギーの普及に向けてどうすべきかを論じています。再生可能エネルギーの継続的な普及は、原発に依存せず、再生可能エネルギーを安定した電源に位置づけ、持続可能な社会の形成につながります。
また、福島県は再生可能エネルギーを復興の柱の一つに置いています。様々な再生可能エネルギー関連産業(発電設備の製造など)の誘致や研究開発を推進しており、福島県内にはすでに多くの企業や研究機関・施設があります。しかしながら、研究開発を行い、新しい製品が開発されても、販売・利用されなければ意味がありません。これらの再生可能エネルギー産業が定着するためにも、再生可能エネルギーの継続的な普及が必要不可欠です。
そして再生可能エネルギーには、東日本大震災からの復興を目指す福島県を始め、多くの地域で再生可能エネルギーを活用して地域活性化を目指す役割も期待されています。
再生可能エネルギーを活用した地域活性化に向けたキーワードとして、本書では「連携」を挙げています。どの地域にもある様々な業種の企業(地域産業)には、専門知識や専門技術を持っています。それらを活かして再生可能エネルギー事業に取り組むことで、地域産業の利益拡大を通じた地域活性化と再生可能エネルギーの普及の一挙両得を図るという考えになっています。現在はこの「連携」に関する研究を重点的に行っており、以前行った調査の事例では、太陽光発電設備の支柱を利用して寒冷紗を設置して遮光し、希少性の高い漢方薬のおたね人参を栽培したり(福島県の事例)、茶畑で付加価値の高い抹茶を栽培したり(静岡県の事例)しています。農業と太陽光発電の連携です。
近年はFIT制度の見直しなどで再生可能エネルギー事業の普及が停滞していますが、Appleなどの世界的な企業が再生可能エネルギーの利用を推進しています。なお、現在行われている再生可能エネルギー事業の多くは民間の企業が実施しています。この「連携」というキーワードは、企業などを中心に、改めて再生可能エネルギーの普及を図る手段になると考えています。
筆者:大平佳男(おおひら・よしお)
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