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法政大学経済学部同窓会>森嘉兵衛賞>第10回
■著者略歴 明治大学政経学部卒業 1971年法政大学大学院社会科学科経済学専攻修士課程に入学 1981年同過程修了。経済学博士 ■講評 今年度の森嘉兵衛A賞は、厳格な審査の結果、平井陽一氏『三池争議−戦後労働運動の分水嶺』(ミネルヴァ書房、2000年6月出版)と決定しました。 本書の著者平井陽一氏は、明治大学政経学部卒業後、1971年法政大学大学院社会科学科経済学専攻修士課程に入学し、1981年に博士過程を修了し、経済学博士を取得している。わが経済学部の川上忠雄、現在は現代福祉学部に移籍した松崎義両教授の指導をうけ、本書のエッセンスをなす三池争議に関する平井氏の一連の論文は、すでに20数年前に学会誌に発表されて、大いに注目され、法政大学経済学部における課程博士の第1号となった記念すべきものであった。その時の博士論文審査の主査が私であった。本書は、この博士論文に、あらたな論文をくわえ、2000年に出版された。 本書は、序章の「研究の目的と対象」につづいて、書名『三池争議』のとおり、第1部「三池争議の争点」、第2部「三池争議への道」、第3部「三池争議」からなっており、日本の世情を二分した1960年安保闘争と並んで、総資本対総労働の対決として日本社会に激変を与え三池争議の研究である。 第1部「三池争議の争点」は、三池争議の歴史的な背景となった三池炭鉱における三池労組の「職場闘争」の実態を解明している。ここでは、三池の職場闘争が生産現場で、労働者的な秩序を形成し、逆に経営者にとって「生産阻害者」であった側面を実証している。 第2部「三池争議への道」は、三池の職場闘争は、大争議に先立つ4年前に「到達闘争」という新たな運動に高まり、「各職場の労働条件と意識」の格差を解消すべく、「弱い職場」が「強い職場」に到達し、労働組合を幹部中心(請負)の闘争から職場に基礎をおく大衆的な運動を目指したことを明らかにしている。そしてこうした職場闘争・職場争議から、エネルギーの石炭からオイルへの大転換を背景に危機感をいだいた経営者は、職場闘争を否定し、「職場規律の確立」をはかる激しい攻撃を加え、組合活動家の解雇をおこなった。これへの組合の抵抗が三池大争議の発端であった。 第3部「三池争議」は、三池大争議の経過を分析し、とくに労組の分裂過程を詳論し、争議の真の原因が職場闘争にあったことを解明し、経営者による労働組合弾圧の過程を跡付けている。 本書は、三池争議についての研究であるが、戦後史において最大の争議として位置づけられながら、争議の表面的な過程についての研究が多い中で、争議の真の原因、三池炭鉱の生産現場・職場にまで下降してあますとこころなく研究した、三池争議研究の唯一の研究成果であった。 労資いずれの立場から読むかによって自ずから評価はわかれるところだが、三池争議という歴史的事実は一つであり、本書は、そうした歴史的事実を、経営側資料と労働組合側の両サイドの豊富な資料を駆使して、また多大なエネルギーを費やしてえぐりだした労作として永遠に残り、今日と後世の研究者に利用され、問題にされることであろう。 また新たに森嘉兵衛賞の一覧表に本学出身者の優れた著作が加えられることになった。評者としては、これを大いに喜びたい。
経済学部教授 村串 仁三郎(鉱山労働史研究家)
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