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法政大学経済学部同窓会森嘉兵衛賞>第14回
森嘉兵衛賞

第 14 回 (2006年) 受 賞 者
B賞森 廣正『ドイツで働いた日本人炭鉱労働者−歴史と現実』(法律文化社,2005.6)
森廣正氏  2005年度の第14回森嘉兵衛賞は、審査委員会において森廣正氏の『ドイツで働いた日本人炭鉱労働者−歴史と現実』と決定した。森氏は本学の大学院修士課程、博士課程を経て法政大学短期大学部の専任を歴任し経済学部教授となり、社会政策を講じ今日に至っている。
 森氏のこの著作は、1957年から1965年までに総勢436名の日本人炭鉱夫がドイツに派遣された事実とその歴史的背景、その意味を、10年間の長い時間をかけて周到なフィールドワークと文献精査によって解明したものである。内容については講評に譲るとして、本書はたかだか数百人の日本人炭鉱夫がドイツに出稼ぎに出た事実の追跡を通じて、実は先進国からの先進国へ、あるいは途上国から先進国への出稼ぎ、移民の問題のあり方について研究したきわめて現代的な価値を持っている。
 森嘉兵衛先生は鉱山業についても造詣が深く、森廣正氏の本書は日本人の先進国ドイツへの移民問題についての希有なかつ優れた研究として森嘉兵衛賞(B賞)に相応しいと判定し、これを評することに決定した。
 なお残念ながら、今年度はA賞の該当者はいなかった。

2006年3月25日

森嘉兵衛賞審査委員会
委員長_絵所 _秀紀
__増田 _寿男
飯田 __
曽村 _充利
村串 仁三郎

著者略歴
1943年 東京都に生まれる
1962年 法政大学第二高等学校卒業
1966年 法政大学経済学部卒業
1976年 法政大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学
__ 法政大学短期大学部専任講師に就任
1982年 法政大学経済学部経済学部助教授に就任
1985年 法政大学経済学部教授に就任(社会政策論担当)
現在_ 法政大学経済学部教授

主著
『現代資本主義と外国人労働者』(大月書店,1986)
『国際労働力移動のグローバル化』〔編著〕(法政大学出版局,2000)

講評
『ドイツで働いた日本人炭鉱労働者−歴史と現実』  2005年度の第14回森嘉兵衛賞の審査委員会は、森廣正氏の『ドイツで働いた日本人炭鉱労働者−歴史と現実』(法律文化社,2005年6月刊)と決定した。森氏は本学の大学院修士課程、博士課程で学び、法政大学短期大学部の専任を経て経済学部教授となり、社会政策を講じ今日に至っている。
 森廣正氏はすでに『現代資本主義と外国人労働者』(大月書店,1986年)と編著『国際労働力移動のグローバル化』(法政大学出版局,2000年)において、国際労働力移動あるいは外国人の移出入問題に取り組み、特に後者の著書によって、わが国における外国人労働者問題の研究者として広く認知されている。
 今回受賞された『ドイツで働いた日本人炭鉱労働者−歴史と現実』はそうした氏の研究業績の中で、斬新かつ希有な研究として注目されている。本書は1957年から1965年までに総勢436名の日本人炭鉱夫がドイツに派遣された事実とその歴史的背景、その意味を、15年間にもわたる長い時間をかけて周到なフィールドワーク、特に膨大な聞き取り調査と文献精査によって解明したものである。
 「第1部 ドイツで働いた日本人炭鉱労働者」においては、第1章で日本人炭鉱夫を日本から呼ぶようになった歴史的背景として、西ドイツの戦後経済復興過程で生じた炭鉱夫不足を論じた。第2章では日本人炭鉱夫がドイツに派遣されるに至る経過を、ドイツ側と日本側の両面から明らかにし、派遣プランと派遣鉱夫選抜、派遣の概要を明らかにしている。
 第3章では第1次計画に基づく日本人炭鉱労働者のドイツ派遣、派遣後の日本人炭鉱夫の労働と生活の実態、第4章では一時中断した第1次計画の復活と第2次計画の策定と実施、そして計画の中止に至る複雑な過程を詳細な資料蒐集と、関係者からのヒアリングで解明している。
 「第2部 日本人炭鉱労働者のその後」においては、第5章では派遣後に日本に帰国した労働者、第6章ではドイツに残留した労働者について追跡調査したものであり、また第7章は炭鉱夫たちの渡航費や年金受給問題、第8章ではドイツにおける外国人炭鉱夫、特に韓国人炭鉱夫の問題を論じている。
 以上のようなドイツへの日本人炭鉱夫の派遣事情の研究は、わが国で初めて日本人炭鉱労働者のドイツ派遣の実態を詳細にかつ着実に解明したものとして大きな価値を持っている。さらに本書は、たかだか日本人炭鉱夫数百人のドイツ出稼ぎの実態を追跡したものでありながら、その事実から実に多くの移民問題についての政治経済、法律や政策などについての教訓を摘出している。
 ここでは詳論できないが、例えば本書はドイツの政府、炭鉱経営者が、日本人の文化的、産業的な違いを当初は軽視したが次第に理解を示し、また労働条件については、ドイツ人と差別することがなかったことを明らかにしている。これは日本の政府、経営者が、日本に移入してくる途上国の外国人をどのように扱うべきかを考えるいい教訓を示している。
 本書は先進国から先進国へ、あるいは途上国から先進国への出稼ぎを考える場合の必須の研究文献となった。

曽村 充利
村串 仁三郎