法政大学経済学部同窓会は 創立25周年を迎えました 法政大学経済学部同窓会事務局 〒194-0298 東京都町田市相原町4342 電話・FAX:042-783-2550 (火・水・金曜 9時〜16時) |
法政大学経済学部同窓会>森嘉兵衛賞>第18回A賞
■著者略歴 1959年 長野県生まれ 1982年 法政大学経済学部卒業 1986年 法政大学大学院修士課程修了 1991年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士) 1991年 法政大学経営学部専任講師 1993年 同 助教授 1994年8月〜96年8月 ハーバード大学客員研究員 1999年 法政大学経営学部教授、現在に至る。 著作論文多数。 ■講評 著者は、20年前に「集団は無知なのか、それとも英知を創造しうる存在なのか」という問題に関心を抱き、以後、「集合知をいかにマネージメントするか」を追求して、「知識社会における経営戦略への解答」を求めてきた。その解答がまさしく本書『集合知の経営−日本企業の知識管理戦略』である。 著者は、「集団をつくりあげる方法を現代日本の企業に求め」、不況の中にあえいでいる今日の企業が「集合知」をいかに管理すべきかを問い、「集合知によるイノベーションの起動」を経営戦略として提示している。 そもそも「集合知」とは何か。著者によれば、「集合知とは、企業の採用する集合戦略によって生み出される知識である。集合戦略によって集合知が生まれ、それがイノベーションを引き起こす新結合の核となる。」そして「集合戦略に対応した集合知の形態は4つに概念化される。共有知、共生知、現場の知、コモンナレッジという4つの形態」としてとらえ、実証をともないつつ以下のように理論展開をおこなう。 序章「経営にける知識と能力」では、経営にける知識と能力について問題点を整理しつつ、「集団が知識を創りあげる」が、「どのようにすれば集団として知識を創造できるのか」、「集団として知識を創造するための方法」を「集合戦略」と規定し、その「集合戦略」の解明を本書の研究課題として提起する。 第1章「集合戦略と集合知」では、「集合戦略の採用の結果として創造された知識」としての「集合知をいかに生み出すか」を明らかにする。著者は、「集合知」についての先行研究をフォローしつつ、独自に集合知の問題を経営学に応用していく。著者は、シュンペーターの「新結合」の概念を手掛かりに、集合知を4類型、すなわち、「共有知」「共生知」「現場の知」「コモンナレッジ」にまとめ、それぞれ理論的な意義を明らかにする。 そして第2章「共有知」、第3章「共生知」、第4章「現場の知」、第5章「コモンナレッジ」で、4類型の集合知を詳論し、筆者独自の独創的な理論を展開する。他の章々ではそれらの論点を補足補強している。 第2章「共有知」では、「組織の構成員がもつ専門性を基盤として,その相互触発の過程から生れる知識」であり、「同盟型集合戦略における知の結合」としての「共有知」について詳論する。すなわちこれは、分業やトヨタ生産方式、提案制度、アライアンスなどの事例を理論化したもので、「共有知」による持続的なイノベーションを生み出すメカニズムを解明している。 第3章「共生知」では、「異なる業種・異種の組織に属する人々による協同作業」である「接合型集合戦略」の結果生れる「集合知」、つまり「合目的的な意図を有した異分野からの参加メンバーによって接合され創り上げられた知識」について詳論する。すなわち、文科省の「知的クラスター創成事業」、地域内の企業間、あるいは企業・大学間で展開される協同開発事業、あるいは地域を越えて展開される合弁事業の協同事業など事例を理論化したものであり、ここでも「共生知」が持続的なイノベーションを生み出すメカニズムを解明している。 第4章「現場の知」では、「集積型集合戦略によって形成された知であり、特定の現場を認識しつつも契約を結んでいない参加者が相互に行動パタ−ンを模倣しつつ、新たな試みを創造するなかで生れる集合知」について詳論する。すなわち、産業集積、輸出加工区、経済特区、シリコンバレー、豊田市周辺、など各種クラスターの現実を理論化したものであり、「現場の知」が持続的なイノベーションを生み出すメカニズムを解明している。 第5章「コモンナレッジ」では、「特定の組織関係が希薄であり、社会のなかで内生的に伝播した知識」であり、「有機型集合戦略によって生まれる集合知」としての「コモンナレッジ」について詳論する。著者は、常識とも訳される「コモンナレッジ」が持続的なイノベーションを生み出すメカニズムを解明している。 以上のように、本書は、企業経営論の一つのプロパーとして「日本企業の知識管理戦略」論を初めて体系的に論じ、「経済学と経営学という2つの社会科学に知識論という一筋の光をあてるという野心的な試み」であった。 本書は、日本国内だけでなく、世界的に高い評価を受けている。審査委員会は、本書を森嘉兵衛賞の対象とすることを本賞にとって大きな誇りと感じるものである。 法政大学名誉教授 村串 仁三郎 |