法政大学経済学部同窓会は 創立25周年を迎えました 法政大学経済学部同窓会事務局 〒194-0298 東京都町田市相原町4342 電話・FAX:042-783-2550 (火・水・金曜 9時〜16時) |
法政大学経済学部同窓会>森嘉兵衛賞>第19回特別賞
■著者略歴 1962年 東京生まれ 1986年 法政大学経済学部卒業 1989年 法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻修士課程修了 1993年 法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程単位取得満期退学 1993年 ワシントン大学大学院経済学研究科博士課程修了(Ph.D) 1993年〜1996年 弘前大学人文学部助手、専任講師、助教授 1996年 法政大学経済学部助教授 2002年 法政大学経済学部教授、現在にいたる 2005年4月〜2006年3月 ワシントン大学(University of Washington)客員研究員 ■講評 奥山利幸(おくやまとしゆき)氏は、現在、本学経済学部教授として教鞭をとられている。本書は、豊かな研究歴と教育歴の集成から生み出された力作である。 本書の構成は、イントロ部分にあたる「第1章、経済活動」に続き、4部構成をなす。それが「第I部、競争市場」「第II部、市場の失敗」「第III部、戦略的行動」「第IV部、制度設計」である。第I部と第II部で市場の射程と限界を把握したのち、第III部では主体間の相互依存関係が生ずる状況の分析を、そして第IV部で社会の設計の問題を考えていく形になっている。ミクロ的な個人のやりとりから市場制度のみならず、さまざまな制度を考えていくという構成で、本書を読了した読者は大きな鳥瞰図を見渡す爽快さを感じるだろう。 本書の特徴は、奥山氏が「まえがき」に述べているように、理論が明らかにしようとしている問題意識を明示的に取り扱っていること、平易な例を多くとりまぜていること、また、他の教科書や文献の内容への橋渡しを強く意識したこと、にある。読者である学生が、理論的な考え方に親しみを持ち、現実との対比を意識しつつ、一段階、二段階先に進めるようにとの心配りがこちらに伝わってくる。また、特に注を読む楽しみも感じさせる。注には「用語注」「学史注」「数学注」「発展」などのことばが添えられ、学習者の興味に応じて、誘導する形になっている。高校数学との対比や、ちょっとした経済学豆知識なども取り混ぜられ、勉強の合間に息抜きできるようなことばも添えられている。氏は「まえがき」で「筆者は、経済学をとても面白い学問と思っている。読者に少しでもその醍醐味を・・・」と述べているが、そのねらいは、十分以上に内容に反映されているといえよう。ところどころ、学部生には多少高度な内容が含まれ、それは大学院生となっても座右に置けるものとなろう。 以前、学生の研究報告会に参加したとき、ほとんどの報告が事例研究のなかで、奥山ゼミの学生が、理論モデルに果敢に挑んで報告していたことが印象に残った。ともすれば理論を敬遠しがちな学生に対し、われわれ教員はときに弱気に妥協しがちになるものだが、奥山氏は、根気強く理論の面白さを伝え、学生を育てている。そうした態度が、この著書にも反映され、氏の温かさと頼もしさが伝わってくる。 森嘉兵衛賞は本来、研究書に与えられるものと考えるが、本書は教科書として多くの学生を導くものと考えられ、また、教科書からは一歩進んだ記載も随所に見られ、多くの発展的研究につながる可能性を有している。その意味で、森嘉兵衛賞の特別賞にふさわしい労作として評価したい。 経済学部教授 廣川 みどり |