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法政大学経済学部同窓会>森嘉兵衛賞>第23回A賞
■第23回森嘉兵衛賞について 森嘉兵衛賞審査委員会は、今年度応募があった二つの著書について、慎重に審査した結果、本年度の森嘉兵衛賞についてA賞として黒川和美『官僚行動の公共選択分析』(2013年、勁草書房)、川崎一泰『官民連携の地域再生』(2013年、勁草書房)を決定した。 黒川和美氏は、長い間本学部の教員とし学生の教育に励み、多くの研究者を育ててきた優れた教育者、研究者であったが、2012年2月惜しくも夭逝された。黒川和美『官僚行動の公共選択分析』は、黒川和美氏の遺稿を黒川先生の御弟子さんたちが刊行したものである。講評に指摘されているように、テキスト的な形をとっているが、公共選択論の第一人者として、官僚行動の分析を体系的におこなった優れた著作である。 川崎一泰氏は、法政経済学部卒業、その後黒川和美教授の指導のもとに本学大学院博士課程をへて博士号を取得し、現在東洋大学教授を務めている気鋭の研究者である。川崎一泰『官民連携の地域再生』は、危機下にある地域の再生方策を地域経済、地方財政の分析を通じて明らかにした労作である。 審査委員会は、上記2著書をともに、森嘉兵衛賞A賞に値する優れた著作であるとして決定した。 2015年3月末日
■講評:黒川和美『官僚行動の公共選択分析』(2013年、勁草書房) 日本における公共選択論の第一人者として名高かった故黒川和美先生が,公共選択論の中心的テーマである官僚行動分析を,体系的,網羅的に取り扱った公共選択論のテキストブック。公共選択論をこれから学ぼうとする者,学んでいる者,そして,公共選択論の研究者にとっても,必携,必読の書。 公共選択論のテキストブックであれば,書名を『公共選択論』とすれば良いように思われるかもしれない。にもかかわらず,『官僚行動の公共選択分析』とあるのは,これまでの公共選択論のテキストブックが,官僚行動の分析を中心としていなかったことにある。すなわち,本書の特徴は,公共選択論の中心的テーマである官僚行動の分析をその背骨に置いたことにあり,しかも,官僚行動の分析を体系的に組み立てつつ,それでもって多元的に見るところにあると言える。徹頭徹尾,官僚行動の分析で貫かれているわけである。1962年のブキャナン・タロックによる分析から始まり,国家財政膨張における官僚制を論じたウィルダフスキーやブキャナン・ワグナーの分析,ピアースやフライによる官僚の行動様式論,ダウンズの官僚行動モデルを論じたあとにニスカネン,ダンレビー,マクナット,ミゲ・ベランジェー,ブレトン・ワイントローブ,ブレナン・ブキャナンの分析を見る。こうした官僚行動の分析を理解した上で,ブキャナン・ワグナーによる憲法による官僚行動の規律化論に戻り,ケインズ政策の危うさや構造改革などに触れながら,官僚制度の改革の方向性を論じてしめくくる。 このようにして,故黒川和美先生の遺作となった本書は,公共選択論の学びと研究に新たな方向性を示しており,森賞受賞に値すると推薦するものである。 奥山利幸(経済学部教授)
■著者略歴:黒川和美氏 1946年、生まれ 1970年3月、横浜国立大学経済学部卒 1970年4月、慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程入学 1973年3月、同上課程終了 1973年4月、慶応義塾大学大学院経済学研究科博士課程入学 1976年3月、同上課程終了 1976年4月、法政大学経済学部助手 1977年4月、同 助教授 1985年4月、同 教授 2008年4月、法政大学大学院政策創造研究科教授 2011年2月、逝去 主要研究業績 1997年、『民優論:真に国民に優しいシステムとは何か』、PHP研究所。 2001年、共著『日本経済の再生は近い』、勁草書房。 2002年、『黒川和美の地域激論:日本の問題、地域の課題』、ぎょうせい。 2006年、編著『地域金融と地域づくり』、ぎょうせい。 その他編著、論文多数。 ■講評:川崎一泰『官民連携の地域再生』(2013年、勁草書房) 本書は、地方自治、地方創生が声高に叫ばれる中で、第2次大戦後のわが国で発生してきた都市と地方の格差問題に対応してきた政府の国土政策、地域政策の歴史的な変遷をたどりつつ、将来のさまざまな制約条件を踏まえつつ、地域の自立的な再生のための投資のあり方を考察した、労作である。 本書は3部から成り、第1部は、地方から都市への人口移動とその背景にある経済情勢・政府の経済政策を概観し、都市・地域再生の制約条件として、総人口の減少・高齢化、そのための財政と長期債務の膨張とを指摘し、バラマキ型の公共投資に依存した地域振興の無力を示唆する。 第2部は、人口制約社会での地域資源の再分配を検討したもので、人口制約社会地域間所得の実証をおこない、バラマキ型公共投資による所得地域経済が地域経済の生産性向上の機会を奪い、地域経済の自立的発展を阻害し、労働市場や住宅市場にゆがみを生んでいることを明らかにしている。 第3部は、財政制約下で地域政策を明らかにするために、自治体の規模、都市の構造、規制戦略について検討し、最適な都市規模や構造を明らかにする。こうして、地域経済再生の手段を提案し、とくに欧米で実施されている開発利益を活用したファンドを手段として強調し、開発利益を具現化するための官民パートナーシップ、課税権を活用した資金調達のあり方を提案する。 本書に収録された論文は、すでに日本計画行政学会奨励賞、日本マンション学会学術奨励賞を受けたものもあり、本書そのものについても第23回租税資料館賞著作賞を受賞しており、学会等で高く評価されている。森嘉兵衛賞に相応しい労作である。 村串仁三郎(法政大学名誉教授)
■著者略歴:川崎一泰氏 1969年、生まれ 1993年3月、法政大学経済学部卒 1995年4月、法政大学大学院経済学科修士課程入学 1997年3月、同課程修了 1997年4月、法政大学大学院経済学科博士課程入学 2000年3月、同課程修了 2001年4月、東海大学政治経済学部講師 2012年、法政大学大学院より博士(経済学)授与 2013年4月、東洋大学経済学部教授 現在に至る。 研究業績 「老朽化マンションの建て替え促進による市場拡大」、八代直宏・日本経済研究センター編『新都市創造への総合戦略』、2005年、日本経済新聞社、所収。 「コンパクト・シティの効率性」、『財政研究』5、2009年。所収。 その他論文多数。 |