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法政大学経済学部同窓会森嘉兵衛賞第15回>A賞
森嘉兵衛賞

第 15 回 (2007年) 受 賞 者
A賞馬場 敏幸『アジアの裾野産業』(白桃書房,2005.4)

著者略歴
1967年生まれ

学歴
1991年3月 神戸大学 理学部卒業
1993年3月 東京大学 理学系研究科修士課程修了 理学修士
1999年10月 東京大学 工学系研究科 先端学際工学専攻 博士課程入学
2002年9月 同博士課程修了 学術博士(科学技術政策、アジア経済)

職歴
1993年4月 株式会社三和総合研究所入社 国際本部就職
2002年9月 同退職
2002年10月 東京大学先端科学技術研究センター先端科学技術研究戦略推進室特任助手就任
2004年3月 同退職
2004年4月 法政大学 経済学部国際経済学科助教授就任

研究業績リスト
著書
2005年 『アジアの裾野産業』(白桃書房) 主要論文
2006年 “Development Model of the Die and Mold Industry in Asia: A Comparative Analysis of Japan and Republic of Korea” Journal of International Economic studies, No.21
2006年 「アジアの金型産業:技術移転と発展モデルからの考察」、『塑性と加工』(「日本塑性加工学会誌」第47巻第546号)

 その他論文多数

講評
アジアの裾野産業  今年度の森嘉兵衛賞A賞の著者『アジアの裾野産業』(白桃書房,2005年、定価3200円、全237頁)の馬場敏幸(ばばとしゆき)氏は、2004年に本学経済学部に就任した新進の助教授である。馬場氏の略歴は、1991年に神戸大学理学部を卒業し、93年東京大学理学系研究科修士課程を経て、2002年工学系研究科先端学際工学専攻博士課程を修了、同時に学術博士を取得している。その間1993年3月から三和総合研究所に入所し、ほぼ9年間業界の実態調査活動を経験し、2002年10月から東京大学先端科学技術研究センターの特任助手をへて、04年に本学に就任している。
 この馬場氏のキャリアだけ見ても、企図する研究のユニークな方向性が推測できるが、馬場敏幸氏『アジアの裾野産業』の意図する基本的な研究課題は、これまで基幹産業の基幹部分にのみ注がれてきた研究対象を産業基幹部分ではなく、基幹産業の裾野分野、すなわち「最終製品を製造するために、部品・部材を供給する産業」(本書9頁)、具体的にはアジアの組み立て産業である自動車、電機産業が抱える実に膨大な部品生産分野に移して、その問題点を実証的に研究したものである。より具体的に言えば、日本の主要産業である自動車・二輪産業と電機・電子産業のアジア諸国、具体的には韓国とインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンのアセアン4ヵ国への展開に対応して、現地における裾野産業の実態を把握しその将来性を展望しようとするものである。
 本書の目次は以下の通りである。

 第1章 序論
 第2章 先行研究
 第3章 裾野産業の定量化
 第4章 自動車産業の事例分析
 第5章 裾野産業関連技術移転の必要要件
 第6章 おわりに

 第1章では研究課題が論じられ、第2章では裾野産業についての先行研究が丁寧に論じられている。
 本論の中心の一つ第3章「裾野産業の定量化」は日本と韓国の二つの国民経済と、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピンのアセアン4ヵ国をひとまとめにした国民経済群、の計三つの経済単位における自動車・二輪産業と電機・電子産業の二つの産業について裾野産業の展開を、アジア経済研究所が作成した1975年、90年、95年のアジア国際産業連関表をもとに、裾野産業の展開の実相を数量的に分析する。
 こうして著者は(1)日本では自動車・二輪産業、電機・電子産業ともに75年の段階でほぼ100%を自国内で部材・部品を調達していた。(2)韓国は自動車・二輪産業では徐々に自国内調達率を上げ、95年までには80%超に達したが、電機・電子産業においては90年までには国内調達が60%超に及んだものの、以後海外依存比率が上昇した。(3)アセアン4ヵ国は自動車・二輪産業では90年以降国内直接調達が50%を超え、間接指標も50%以下であったものの、日本に依存する額を上回る水準に達した。しかし、電機・電子産業では75年以降国内調達率は60%台から低下し、海外への依存を高める傾向にある。などの事実を明らかにした。
 第4章「自動車産業の事例分析」はインドネシアを中心とするアセアン4ヵ国と韓国における、自動車産業の国産化の実態と現地でのヒアリングをもとにした技術水準について分析したものである。前者については既存の研究に依拠して、車種により違いがあるものの国産化率は韓国では80〜100%に達するのに対して、アセアン4ヵ国では国、車種による差異が大きいが(インドネシア50%前後、タイ60〜70%、マレーシア41〜90%)、概して海外や現地の外資系メーカーへの依存度が高いことを明らかにしている。後者の技術水準に関する検討ではサプライヤーが持つ部品の開発能力、量産能力、改善能力などを基準に、自動車メーカーとサプライヤーとの間の部品の取引形態を分類してみると、韓国が90年代中頃に初期開発能力を持つ高い技術レベルを誇る部品メーカーが育っていたことを明らかにしている。これに対し、アセアン4ヵ国ではサプライヤーのレベルが製造技術に留まっており、依然部材・部品の先進国への依存が強い段階にある事実を明らかにしている。
 第5章「裾野産業関連技術移転の必要要件」の課題は2001年と翌02年の2年間にわたり日本の金型メーカー、成形メーカー、業界団体に対して行った聞き取り調査によって得られた情報をもとに、韓国の金型産業が日本にキャッチアップした要因をデジタル技術の作用を中心に検討することである。ここでも著者は、デジタル技術の浸透が金型産業へ与えた影響について文献だけでなく、自らおこなったヒアリングによって得た情報をもとに克明に跡付けて、独自の研究成果を提示している。
 以上、本書は世界的に虚業がはびこり、モノ作りの世界が相対的に圧縮され軽視されているなかで、製造業しかも日の当たりにくい裾野産業についての詳細かつ実証的な研究を行ったものとして、学会においても高く評価されており、森嘉兵衛賞A賞に相応しい労作であると評したい。なお本書のもつ積極的な評価や問題点、欠陥などについてはここで詳しく論じるのは筋違いなので、本書に特に関心のある人は、菊池道樹「書評 馬場敏幸『アジアの裾野産業』」(「経済志林」第74巻第4号)を参照していただきたい。なお本講評の作成に際しては、菊地氏の書評を参照させていただいたので、記して謝意を表しておきたい。

経済学部教授 増田 寿男