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法政大学経済学部同窓会>森嘉兵衛賞>第16回>A賞
■著者略歴 1972年10月 長崎県生まれ 1991年3月 愛媛県立松山北高校卒業 1991年4月 法政大学経済学部経済学科入学 1996年3月 同 卒業 1996年4月 早稲田大学大学院経済学研究科修士課程入学 1998年3月 同 修了 1998年4月 信濃毎日新聞社入社 飯田支社に配属 2002年2月 同社本社報道部、現在に至る ■講評 筆者の東条勝洋(本名東條)氏は、1991年4月に法政大学経済学部に入学し、1996年3月に卒業した後、早稲田大学大学院経済学研究科に進学し、これを修了して直ちに信濃毎日新聞社に入社し、新聞記者として活躍しているジャーナリストである。 本論文は、東条氏が2006年に単独で取材・執筆したルポルタージュであり、現在のわが国で最も重視されている社会的問題の一つである地域格差や市町村財政の破綻とその背景を、木曾・王滝村に即して活き活きと描いたものである。その内容は、地理学・社会学・文化人類学等で言う参与観察の手法と丹念な文献資料の掘り起こしを踏まえ、学術論文という形式をとってはいないが、学術的手法に十分裏付けられ、現在の王滝村が抱えている問題を、歴史的かつ地理空間的により広大な視野から捉えなおしている労作である。 本論文の内容は、幕藩時代や明治期、さらには高度成長期に王滝村とその領域が日本の中で置かれた位置を「官」という語句で象徴させ、そこに建設されたダムが現在の日本では最も経済的に恵まれた位置にあるとされる愛知県の経済発展と無縁ではないことを示すとともに、官には依存せずに独自の取り組みで地域の経済的自立を探る日本の他地域の山村との比較も踏まえて執筆されている。しかし、ルポルタージュの中心は、あくまで現在の王滝村で生活する多様な人びとへのインタビューとさまざまな資料に基づいており、かつては林業とダム、そしてスキー場開発のゆえに経済的に栄えたものの、平成の市町村合併で近隣町村から合併の要件を満たさないとして合併協議から排除されるほどに現在は村財政が危機に瀕するほどになった経緯を克明に描いている。同時に、そのなかで村の建て直しを図るべく行動する村人たちの姿をも描いている。 東条氏は、ルポルタージュを執筆するに先立ち、取材のために信濃毎日新聞社の支局が配置されているわけではない同村に居住し、取材と執筆公表を長期にわたって交互に重ねた。2006年1月、3月、5月、7月、9月と奇数月にのみルポルタージュが信濃毎日新聞社会面に印刷されたことがそれを示している。したがって、東条氏の取材と執筆活動に対しては、直ちに王滝村の村民からの反応があったはずであり、それを受けて取材先や取材方法、執筆の方向性なども影響を受けたと推測されるし、逆に東条氏のルポルタージュが村人の行動に影響を与えた側面もあると推測される。東氏のルポルタージュは、学術論文の多くが果たしえない社会的インパクトを、王滝村や長野県だけでなく、より広く日本社会に与えた。本論文は、すでに2007年5月に第22回農業ジャーナリスト賞を受賞し、またこのルポルタージュを所収する信濃毎日新聞社編集局(編)『民が立つ』信濃毎日新聞社、2007年発行が、2007年度の新聞協会賞を受賞し、社会的にも高い評価をえている。 本論文は、森嘉兵衛賞のA賞にふさわしいと判定したい。 経済学部教授 増田 寿男 |