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法政大学経済学部同窓会>森嘉兵衛賞>第16回>B賞
■著者略歴 1934年 栃木県足尾生まれ 1952年 群馬県立桐生高等学校卒 1957年 都立大学工学部卒 1957年 日鉄鉱業入社 1991年 同社 取締役就任 1995年 釜石鉱山代表取締役・社長就任 1999年 同社 退職 現在 NPO法人足尾歴史観副理事長 著書 『足尾銅山物語』、『鐵都釜石の物語』いずれも2007年、新樹社刊 ■講評 著者の小野崎敏氏は、一徳の孫に当たり、足尾の銅山町で生まれ育ち、都立大学工学部を卒業して日鉄鉱業に就職して、つい最近まで日鉄鉱業の役員であった足尾銅山に根っこをもった異色の人である。 本書は、題名からもわかるように、足尾銅山の生成期の明治期から昭和4年に没するまで足尾銅山の御用写真屋として活躍した小野崎一徳の写真250葉をもとに、近代の足尾銅山史を概観したものである。本書は以下の内容である。 はじめに 第一章 古河市兵衛の足尾経営 第二章 明治三〇年の鉱毒予防工事 第三章 鉱山町の人々 第四章 鉱山を支えた根利山資源 第五章 「足尾絵葉書」と観光ブーム 第六章 産業技術史から見た一徳写真集−鈴木淳 第七章 写真師・小野崎一徳 あとがき 本書は、鉱山史の専門的研究者によるものではなく、一研究愛好者のいわばアマチュアーの手になるものであるが、その中身は、専門的研究者の研究をこえる質の高いものとなっている。 本書に収められた写真は、小野崎一徳が、大正4年ころまでに足尾銅山にかかわる様々な風景、足尾銅山の経営陣の写真、足尾銅山の坑内の作業風景、各坑口、製錬所内外の風景、あるいは銅山地域内の鉄道、発電所施設、交通機関、特に銅山と銅山外を結ぶ架空索道、選鉱場、つまり鉱山の外的な風景から鉱山内部のさまざまな経営実態の側面を映し出した写真である。 本書に掲載された写真集は、遺族である小野崎氏に残されていたものに、解説をつけて出版したというのではない。実は、一徳が残した写真は、多くが散逸、消滅し、一徳が大切に保持していた原板(乾板)は、戦時中に資材として供出されて消滅していた。そうした事情の中で、小野崎氏は、足尾に関する文献を渉猟する情熱的な研究心、永い間の研究努力によって、埋もれ、散逸した一徳の写真を掘り起こし、蒐集して、ここに公刊したのである。 こうしたビジュアルな足尾銅山の写真は、これまでバラバラにある程度みることができたが、本書によって一括してみることを可能にした。産業史がしばしば抽象的な散文だけのものに終わっているので、本書は、機械、技術、経営、坑夫、その他をビジュアルに示すことによって、これまでわかりにくかった、鉱山史、産業技術史のディテイルに光を与え、多くの新発見を生み、産業史を実りあるものにしている。 また小野崎氏による一般的な足尾銅山史かつ個々の写真解説は、足尾銅山生成期に参加したさまざまな人物模様や鉱山技術の実態について、氏があらゆる文献を渉猟して、集めた知識を、縦横に書き加え、通常の研究書や論文では見落とされ、指摘されることのなかった多くの興味深いファクトを提示していて興味深い。 なお小野崎氏は、『足尾銅山物語』、『鉄都釜石物語』(共に2007年刊、新樹社)の2著があるが、何れも平易で読みやすいが、周到に調べ書き上げた歴史書であり、歴史家としての力量をよく示している。 本書は、足尾銅山史だけではなく鉱山史、産業技術史の分野に写真という資料を提供することによって新しい研究視角を提起しており、森先生も多く手掛けた鉱山史研究の分野に大きく貢献する労作として、森嘉兵衛賞のB賞を飾るにふさわしいと評価できる。 経済学部名誉教授 村串 仁三郎 |